極上の愛に囚われて
女性は吐き捨てるような物言いだ。
こ……これは修羅場じゃ? 聞いていてはいけないよね? どうしよう。ここから出て行った方がいいかな。
おろおろと立ち上がろうとすると、バンッとテーブルを叩くような音がして体が跳ねた。心臓が口から飛び出そうにドキドキしてしまう。
『僕はきみとは違う。この離婚は父からの命令でもあるんだ』
別の男性の声が聞こえてきて、今度は心臓が止まりそうになった。
え……この声は……翔さん……? 今テーブルを叩いたのも彼なの?
そんな乱暴な事をするイメージがない。
どんな状況なのか。本当に彼なのか。ドキドキしながらも静かに聞き耳を立ててしまう。
『……なるほど小栗ホールディングスの総意ってわけね。それなら仕方ないわ。こんなもの、いくらでもサインしてやるわよ』
しばらく間が空いて、女性が立ったような音がした。
『さよなら。もう二度と会うことはないわね』
ツンとした口調で言った女性は隣室から出ていったようだ。
ついで弁護士らしき人が『では、こちらを提出しておきます』と告げている。
どういうことなの。隣で起こったことはなんなの。夢じゃないよね?