策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「そ、信じられないだろ」
「今は?」
「噛まないから、安心して大丈夫だよ」
ほっとしたのも束の間。にこやかな院長の大きな瞳が、柔らかな目から鋭い目つきに変わる。
「犬種によっては、冷静で落ち着いた犬もいるけど、小型犬は大型犬よりも痛みに対する感受性が強い」
感受性に差があるんだ、知らなかった。
「でも、メイが噛みつく理由は? 今、目の前のメイの症状を見てどう思う?」
テキパキと処置の準備をする院長に質問された。
「目が赤くて、涙が出てます」
「そうだな、痛そうに見えるか?」
「痒そうに見えます。うううって、掻きたくなるくらい痒そうです」
メイを想うと、片側の顔が歪む。
「痛みっていうより、痒みだよな。メイは、つらそうだよな」
「はい、かわいそう」
「今回のメイの例は、痛みの問題じゃなくて、臆病で神経質な性格だから」
「感受性じゃなくて」
「そういうことだ。個々の患畜をよく観察して、性格や行動をよく覚えておけよ」
「はい」
「メイは、最後の最後まで油断するな」
処置をする、優しく丁寧な手先とは裏腹に、声は鋭い。
メイは、よほどの子なんだ。
処置が終わり、抱っこしたまま診察室を出て、待合室の椅子に座っているオーナーの腕に手渡したときも、メイはおとなしくて。
瞬間、なにがなんだかわからないうちに痛い。
なにが起こったの? 足がじりじり痛いっ、なんなの。
五秒が五分みたいに長く感じられて、やっとわかった。
へえ、太ももの外側をメイに噛まれたんだって。
一瞬わからないと、人って自分に起こった出来事なのに、ひとごとみたいに思ってしまう。
「あらあら、大丈夫だった?」って、少々オロオロするオーナーの手前、なんでもないような笑顔で立ち去るしかないでしょ。
痛みを見せて、事をおおごとにはできないから、オーナーの前では我慢で乗り切らなきゃ。
痛いのなんの、あんな小さな体でどれだけ顎の力があるの?
ひりひり沁みるように痛いまま、診察室を片付けて、スタッフステーションに向かった、平気ですよって顔で平然と。
「お疲れ、これ」
スタッフステーションに入った私の背後から、卯波先生の声が聞こえた。
ん? これってなにかと思って振り向いた。
「痛いだろう、噛まれた太もも。内出血だろうから腫れる前に湿布で冷せ」
なんの表情もなく、顎で休憩室で貼って来いって合図をしてくる。
「きっと腫れ出すだろう。もし、腫れが引いたら、次は温めろ」
「気づいてくれてたんですか?」
返事もなく、真顔で淡々としている卯波先生。
表情はなくても、気づいてくれたことが嬉しくて、笑顔が隠しきれない。
「ありがとうございます」
「早ければ早いほうがいい」
笑うでもなく、やっぱり休憩室に行けと顎で合図してくる。
「今は?」
「噛まないから、安心して大丈夫だよ」
ほっとしたのも束の間。にこやかな院長の大きな瞳が、柔らかな目から鋭い目つきに変わる。
「犬種によっては、冷静で落ち着いた犬もいるけど、小型犬は大型犬よりも痛みに対する感受性が強い」
感受性に差があるんだ、知らなかった。
「でも、メイが噛みつく理由は? 今、目の前のメイの症状を見てどう思う?」
テキパキと処置の準備をする院長に質問された。
「目が赤くて、涙が出てます」
「そうだな、痛そうに見えるか?」
「痒そうに見えます。うううって、掻きたくなるくらい痒そうです」
メイを想うと、片側の顔が歪む。
「痛みっていうより、痒みだよな。メイは、つらそうだよな」
「はい、かわいそう」
「今回のメイの例は、痛みの問題じゃなくて、臆病で神経質な性格だから」
「感受性じゃなくて」
「そういうことだ。個々の患畜をよく観察して、性格や行動をよく覚えておけよ」
「はい」
「メイは、最後の最後まで油断するな」
処置をする、優しく丁寧な手先とは裏腹に、声は鋭い。
メイは、よほどの子なんだ。
処置が終わり、抱っこしたまま診察室を出て、待合室の椅子に座っているオーナーの腕に手渡したときも、メイはおとなしくて。
瞬間、なにがなんだかわからないうちに痛い。
なにが起こったの? 足がじりじり痛いっ、なんなの。
五秒が五分みたいに長く感じられて、やっとわかった。
へえ、太ももの外側をメイに噛まれたんだって。
一瞬わからないと、人って自分に起こった出来事なのに、ひとごとみたいに思ってしまう。
「あらあら、大丈夫だった?」って、少々オロオロするオーナーの手前、なんでもないような笑顔で立ち去るしかないでしょ。
痛みを見せて、事をおおごとにはできないから、オーナーの前では我慢で乗り切らなきゃ。
痛いのなんの、あんな小さな体でどれだけ顎の力があるの?
ひりひり沁みるように痛いまま、診察室を片付けて、スタッフステーションに向かった、平気ですよって顔で平然と。
「お疲れ、これ」
スタッフステーションに入った私の背後から、卯波先生の声が聞こえた。
ん? これってなにかと思って振り向いた。
「痛いだろう、噛まれた太もも。内出血だろうから腫れる前に湿布で冷せ」
なんの表情もなく、顎で休憩室で貼って来いって合図をしてくる。
「きっと腫れ出すだろう。もし、腫れが引いたら、次は温めろ」
「気づいてくれてたんですか?」
返事もなく、真顔で淡々としている卯波先生。
表情はなくても、気づいてくれたことが嬉しくて、笑顔が隠しきれない。
「ありがとうございます」
「早ければ早いほうがいい」
笑うでもなく、やっぱり休憩室に行けと顎で合図してくる。