策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 優しさが滲み出る笑顔に、安堵で胸を撫で下ろした。

 前に院長が話してくれた話。

 良い家柄の方々ほど、そこまで家柄にはこだわらないって話は本当だったんだ。

「家柄は、どうでもいいのよ。どうでもいいことや、気にする必要のないことは、ささっと払い落としなさい」

 肩や胸を払うしぐさ。

 私が、ひとりで重荷を背負い込まないように肩を。
 ひとりで胸に溜め込まないように胸を。

 卯波先生のお母様の深い愛情が満ち溢れる笑顔に、嬉しさで胸がいっぱいになる。

 常日頃から、『無駄なことを考える時間がもったいない』と言っている、卯波先生の考え方に通ずるものがある。

 ご両親も卯波先生も、心が広くおおらかで優しい。
 いつまでも柔らかな笑顔の余韻が残り、幸せな気分がつづく。

「卯波家は、先祖代々のものを守っていくために、生活はとても質素だよ。維持しながら守るということは大変なんだよ」

「いいものを長く愛することが大切なのよ。だから、卯波家は質素よ。自動車も見栄えではなく、安全面や防犯を第一に考えているの」

 お二人の言葉を受けて、卯波先生がつづける。

「一目で資産家とわかってしまったら、子どもが誘拐されたりする可能性がある。だから高級車には乗らず、運転手も送り迎えは目立たないように一般人と同じ服装だ。運転手はドアの開閉もしない」

「そういえば、根崎さんもふつうのスーツ姿でしたね」

「燕尾服は、ドラマや映画の中の世界だ。あの服装で外出して(つか)えたら、一発で一般人ではないと周りは察するだろう?」

「たしかにそうですね」

「晴明の言う通り。われわれは、質素に目立たぬように生活しているんだよ」

「初美さんだって、いかにも家政婦さんって服装ではなかっただろう? 質素で、おふくろと変わらない」

 真の資産家って、品格があり慎ましいって本当なんだ。

 卯波先生の持ち物には素材のよさ、見た目や立ち振舞いには品のよさは出ているけれど、お金の使い方は、ふつうの人よりも質素かも。

 一見、ふつうの人だから気づかなかったし。

「社会への貢献をするのはもちろん、根崎さん、初美さん、竹さん、運転手の雇用を生み出すことも忘れてはいけないのよ」

 余計な贅沢はしない、お金を使うのは社会貢献のためか。

「桃ちゃん、余計な心配はいらない、安心して嫁いできなさい。晴明、その前に桃ちゃんの親御さんから、正式に結婚の承諾を得るんだ」

「わかっています」

 丁寧ながらも鋭い声を聞けば、強い瞳で誓う卯波先生の真剣な顔が目に浮かぶ。

 私は、この人についていく。
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