転生した人魚姫の奮闘とその結末

 ポンッ

『きゃっ!』

 私の腕の中にいたオーフェンが消えて、目の前に黒髪、浅黒い肌のセクシーな男性が現れた。
 彼は髪を搔き上げて、情熱的な黒い瞳で私を見た。

「このタイミングで戻るとはな……」

 そんなことをつぶやいたかと思うと、私の腕を掴み、顔を寄せてきた。

「サーナ、俺を選べ! 俺も王子だ。俺と結ばれたら、お前は海の泡にならない。声も戻る」
『えっ、え……?』

 そのイケメンの声も口調もオーフェンのものだった。
 
『もしかして、あなた、オーフェンなの?』
「あぁ、そうさ。権力争いのとばっちりで、あの魔女に姿を変えられていたんだ。惚れた女の口づけが解呪条件なのに、自分からは言えないという厄介な呪いで、半ばあきらめていたんだがな」

 お前が解いてくれたと、オーフェンはニヤリと笑った。
 その笑みはとてつもなく色っぽく、それを間近で見てしまった私は、かああと体温が上がった。
 それに。

『惚れた女……』

 彼の言葉を繰り返す。

「そうだ、サーナ。お前が好きだ。俺のものになってくれ」

 両手で頬をはさまれて、じっと見つめられる。
 恋い焦がれるような眼差しに、さらに体温が上昇した。

『ちょ、待って、待って!』

 まだ混乱から立ち直れない。
 オーフェンがカメじゃなくて、カメがオーフェンで、王子様で、えっ、オーフェンが王子様で、私が好きって?
 ウソでしょ?

 待ってと言ったのに、オーフェンは追求を緩めてくれなかった。

「サーナも俺のことが好きだと言ってくれただろ? 失恋の傷を癒やすなら新しい恋だぞ?」

 親指で頬をなぜられ、ゾクリとする。

 あれはカメのオーフェンに言ったわけで、親友として言っただけで……。
 でも、オーフェンが人だったらよかったのに思ったことはなかった? 
 カメの姿でもドキドキしたこともあったよね。
 口説かれたことのない私は簡単に揺れ動いてしまう。

「なぁ、サーナ。いいだろ?」

 い、いいってなにが?
 オーフェンは目をすがめ、唇の触れそうな距離で……触れた。

『!』

 熱い唇が私のものに押しつけられる。
 ペロリと唇を舐められて、ビックリしていると、唇の合間から、舌が入り込んできた。
 オーフェンの舌は、遠慮もなく私の口の中を舐め回して、ツンツンと私の舌をつついた。

(どうしろっていうのよ!)

 初めての行為に戸惑っていると、私の舌をすくい上げるようにして、絡められた。
 さんざん貪られて、オーフェンが唇を離した頃には脚の力が抜けていた。 
 くたんと座り込みそうになった私をオーフェンが難なく支える。

「ちょっと、オーフェン! いきなりすぎるわ!」

 私が文句を言ったのに、オーフェンはとびきりの笑顔で、またチュッとキスをした。

「俺を受け入れてくれたんだな」

 ささやかれて気がついた。
 声が出ている!

(ちょっと、私! こんなに早く心変わりするなんて、あり?)

 罪悪感が顔に出ていたようで、オーフェンはニヤッと笑うとささやいた。

「俺が魅力的すぎるからだ。仕方ないだろ?」


 オーフェンに口説かれて、絆されて、気がつけば、彼と結婚することになっていた。
 彼の国では、政敵が呪い返しでカエルになっていて、あっという間にオーフェンが政権を掌握した。
 そんなこんなで、それから私はオーフェンに愛し守られ、幸せに暮らした。

 物語とずいぶん違ってしまったけど、めでたしめでたしよね?

< 8 / 8 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

運命には間に合いますか?

総文字数/29,663

恋愛(純愛)28ページ

ベリーズカフェラブストーリー大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
スペイン建築が大好きな設計士 大橋優那(おおはし ゆな) 28歳 × せっかちな空間デザイナー 守谷翔真(もりや しょうま) 33歳 優那はスペイン建築を学ぶという夢が実現するというときに、空間デザイナーの翔真と出会った。 せっかちな彼は出会って二日目で優那を口説いてくる。 翔真に惹かれながらも、スペインに行くことが決まっている優那はその気持ちに応えられないときっぱり告げた。 それでも、翔真はあきらめてくれない。 毎日のように熱く口説かれて、優那は――
不機嫌な魔術師は、生け贄の聖女をたすけたい。

総文字数/4,609

ファンタジー1ページ

第6回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
コンテスト「1話だけ部門」応募作品です。
恋も断罪もいりません! 悪役令嬢は推しよりチョコ作りに夢中です

総文字数/5,198

ファンタジー1ページ

第6回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
エリステラ・クロイツ侯爵令嬢(16歳)は10歳のとき、自分が恋愛ゲームの悪役令嬢に転生しているのに気づく。 自分が悪役令嬢なのもショックだったが、一番衝撃的だったのは、大好きなチョコレートがこの世界にはないことだ。 それどころか、この世界ではスイーツの種類が圧倒的に少ない。 「お菓子がないなら作ればいいじゃない」とさっそくお菓子作りに没頭する。 婚約者のイディアル王太子はもちろん、推しだった隠し攻略キャラのネルスト公爵が近づいてくるけれど、前世で恋人に裏切られた経験から『もう恋はしない!私はお菓子作りに生きる!』と心に誓う。 だが、エリステラの作るお菓子にはなぜか”回復・浄化・解毒”などのとんでもない効果が付与されることがわかった。 彼女の特殊スキルだ。 恋からも断罪からも逃れて、穏やかに生きていきたいだけなのに、この強力すぎるスキルのせいで、エリステラはゲームのストーリーを超えた展開に巻き込まれていく―― コンテストの「1話だけ部門」応募作品です。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop