仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


 淡々と悪びれる様子もなく話す拓郎に、大知はどんどん怒りが増していく。

 誰にも話していないはずなのに、どうして拓郎が知っているんだ。それに、借金があったからって、どうして離婚に繋がる?

「やはりあの製薬会社の娘さんがよかったじゃないか。お前が杏さんじゃないと嫌だとか言うから」

 スクロールしながら、ぶつぶつと文句を垂れている。どうやらこっちの話を聞く気はないらしい。テーブルに乗せた大知のこぶしに、ぎゅっと力がこもった。

「離婚はしない」

 そうハッキリ言えば、拓郎は一瞬だけ目を上げ、ふっと小バカにしたように笑った。

「別に杏さんじゃなくてもいいだろう」
「惚けたことを言うな」
「惚けているのはお前だ! 少しは自分の置かれた状況を考えろ!」

 ダンっとテーブルに拳を振り落とす。

 周りにいた客が、何事かと振り返るが、拓郎は自分の顔が割れているにもかかわらず、自分勝手な発言を繰り返す。

「岩鬼家の嫁が、借金まみれなんて世間にしれたらどうなる。おしまいだ。すぐに離婚して、新しい女と結婚しろ」

 青筋を立て、大知を睨む。自分の親ながら、呆れる。


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