仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「悪い、もう行かないと」
腕につけている時計を見ながら、白衣を翻す。
「お仕事頑張ってくださいね」
「あぁ、ありがと。杏も気をつけて学校行けよ」
「はい」
小さく手を振りながら、院内の奥に消えていく彼の背中を見送る。
するとその刹那、大知がプライベート用のスマホをポケットから取りだした。
「なんだ。こっちは忙しいんだ。昨日からしつこい」
昨日は頑なにでなかった電話に、今日はあっさりと出た。しかも怒りを孕んだ声。
(いったい誰と話しているんだろう?)
電話をしながらどんどん遠ざかる大知を見据えたまま、立ち尽くす。
「何度もかけてこないでくれ、仕事の邪魔だ。それにその件は断ったはずだ、親父」
(お義父さん? その件って?)
だが、それ以降の会話は聞こえず、杏の中に不安な気持ちだけが残った。