仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「杏、あんまり一人で抱え込まないようにね」
「ありがと、清香ちゃん。でも本当に大丈夫だから」
そう言う顔には、さっきとは打って変わり、正真正銘の笑顔が浮かんでいた。清香に話を聞いてもらって、少しスッキリしたのだろう。清香も杏の嘘のない笑み納得したようで、それ以上何も言わなかった。
夕方。授業を終えると、その足で杏は実家の病院へと向かった。
北条病院は内科・循環器内科を標榜する、有床数二十床を有する小規模病院だ。三階建てになっていて、一番上は明の自宅になっている。
杏もここで長い間生活をし、明や病院のスタッフに支えられながらやってきた。ここの香りを嗅げば心からホッとし、楽しかった思い出が一気に思い出される。
「こんにちは」
挨拶をしながら病院のドアを開ける。中に入るとすぐに受付があり、そこに座っていた一人の女性が驚きながら腰を上げた。
「杏ちゃん!? どうしたの」
「診療中にごめんなさい。お父さんに会いに……」
「今誰もいないから、どうぞ」
笑顔で迎え入れてくれたのは、医療事務の宮近志乃(みやちかしの)だ。