仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「杏、身体は平気か?」
「え? あ、はい……」
「それならよかった。無理させて悪かった」
「そ、そんなことはないです」
杏は慌てて否定した。
大知に抱いてもらって、すごく嬉しかった。後悔は微塵もないない。ただ、自分がなにか粗相をしていないかだけが心配だ。
そもそもこの年で、初めてだったということに、ドン引きしていないだろうか。今さらだけど……。
杏は小柄で愛らしい顔立ちをしているため、昔からそこそこモテた。儚げな印象が庇護欲を煽るらしく、杏という名前と天使をもじって「アンジェル」というあだ名もあった。
でも誰に告白をされても杏は靡くことなく、ずっと大知だけを想っていた。そうこうしているうちに、あっという間にこの年になってしまったというわけだ。
「どうした?」
そんな杏に気付いた大知が、上半身を起こし杏を見下ろす。その顔には、心配そうな影が走っている。
「いえその……私、初めてだったので、ご迷惑おかけしてないかと心配で」
「え?」
「そ、それにすごく気持ちよくなっちゃって……。はしたないですよね」
言い終えると、かぁっと顔に熱が集まり、両手で覆う。
(あぁ、大知さんの顔が見れない。最後に嫌われたらどうしよう。せっかく円満離婚の予定だったのに)