仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「あのそれと、お忙しいところ恐縮なんですが、この前急遽キャンセルした園田製薬さんとの面会、再度予定を入れさせてほしいとのことです」

 それを聞いて、そうだったと思い出した。

 急遽キャンセルなどと、閑はオブラートに包んで言ってくれているが、杏に話があると言われて、すっぽかしたのだ。恐らく、閑が尻拭いをしてくれたのだろう。

 十名ほどいる脳外科医のスケジュールや、学会の資料集め。ときには、飲み会にも同行し、医師のサポートをする医局秘書という仕事は、かなり大変だと思う。

 それに、医師とは、偏屈な人(かくいう大知もだが)が多い。だが閑はそれをうまく操っている。頼もしい存在だ。閑が来てくれて、本当に助かっている。

「今週はなるべく早く帰りたい。来週で調整してくれ」
「わかりました」

 杏との残りの時間を少しでも堪能したい。向かい合って一緒に食事をして、他愛もない話をしたい。これまで、杏とはデートらしいデートもしてこなかった。外食に行くのもいいかもしれない。

 そんな想像をする自分の頬が緩んでいることには、ちっとも気づいていなかった。


< 53 / 161 >

この作品をシェア

pagetop