仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「う~ん」

 頭を抱えたまま、小さく唸っていると、そこに一つの影が近づいてきた。

「杏? どうしたの。唸り声なんて上げて」

 頭を抱える杏を覗き込んできたのは、清香だった。トレーにアイスティーと人気メニューである、サーモンプレートを乗せていて、今からお昼ごはんのようだ。 

「清香ちゃん。ううん、ちょっとね」
「どうせ旦那さん絡みでしょ?」

 茶化すような瞳を向け、クスクスと愉快そうに笑うと、ちょこんと隣に腰掛けた。

 ここはオープンテラスになっていて、持ち込みもOKのため、気候のいい日はこうやって外で食べる。有名建築家が手掛けたということもあり、近代的で解放的な空間が広がっている。少し前、おしゃれな大学内のカフェテリアとして、雑誌で紹介されたのだとか。

 しかもごはんは安くて美味しいと評判で、杏も清香もよく利用している。

「杏のサンドウィッチ、美味しそうだね。手作り?」
「うん。今朝大知さんにサラダ作ったんだけど、食べる前に呼び出しがかかっちゃって」

 だから食パンに挟んで持ってきた。杏はアレンジ上手で、実は料理の腕もなかなか。母親が亡くなってからは、彼女に代わって料理をしていたお陰だろう。

 良い家柄でお金にも不自由したことなかった杏だが、すごくマメで、食材やものを無駄にすることを嫌う。



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