仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない
「朝から一緒に食事か。なんか離婚間近の夫婦には思えないんだけど。杏の顔も、なんかこう、ちょっと幸せそうだし、艶々してる」
「つ、艶々!?」
顔を両手で覆ったまま、素っ頓狂な声が上がる。清香が昨夜の情事を知るはずないのに、あからさまに動揺してしまった。
「やだ、どうしちゃったの、杏」
そんな杏を見て、清香がケラケラと笑う。
「ご、ごめん。なんでもない」
落ち着かせるように、マグボトルに詰めてきたコーヒーを一口含む。
(あー、ますます体が熱くなってきちゃった)
「嘘だ—、絶対なんかあったでしょ。私を誤魔かせると思ってるの?」
にやりと笑いながら、探るような目を向け杏を尋問し始める。慌てて逸らすと、ずいっと顔が近づいてきた。
「杏、今私から目を逸らしたね。それに唇が乾いてる」
図星を突かれ、ぎくっとした。目を逸らす行為、そして唇の渇きは緊張や隠し事をしている証拠。やはり、人一倍洞察力の優れた清香を騙すことなんて、無茶に等しかったのだ。