仮面夫婦のはずが、怜悧な外科医は政略妻への独占愛を容赦しない


「もう横になったほうがいい。何か欲しいものとか、してほしいことはないか?」

 杏をベッドの中に促すと、そっと布団をかけてくれた。どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。熱を出してよかったなんて思い始めている。

「じゃあ、ゼリーを……」
「わかった。買ってくる」
「あの、それと」

 立ち上がり、今にも出て行きそうな大知に声をかける。

「眠るまで傍にいてくれませんか?」

 布団の端を握り、ギュッと目をつぶったまま意を決したように言った。

(我儘だと思われたかな。忙しい大知さんを引きとめるような真似して悪かったかな)

 早速後悔を並べていると、意外な返事が返ってきた。

「そんなことか。なんなら、朝までついてるよ」
「いいんですか?」
「あぁ。少し待ってろ。先にコンビニ行ってくるから」

 ぶっきらぼうな言い方だが、彼の優しい気持ちが伝わってくる。杏が「はい」と遠慮がちに答えると、大知はわずかに微笑み、部屋を出て行った。



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