暗い暗い海の底
 今日は帰ってこないと思っていた夫が、乱暴に玄関を開けて帰宅した。

「くそっ」
 鞄を放り投げて、ソファに身体を投げ出して横になる。こんなときは、黙っているにかぎるのだが、それも彼の不満を増長させるものだったらしい。

「おい。俺が疲れて帰ってきているのに、何も言わないのか」

「おかえりなさい」
 と、先ほども言ったはずだが。

「そうじゃない。おい。酒、寄越せ」

「ビールですか? ワインですか?」

「むしゃくしゃしてるんだ。ビールに決まってんだろ」

 むしゃくしゃしているときはビール。いつからそう決まったのか、私にはわからない。冷蔵庫から缶ビールを一本、そしてグラスを手にして、彼の前においた。

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