暗い暗い海の底
「あなたこそ、いつから私のことを? 私もずっと聞いてみたかったんです」

 負けじと尋ねてみた。すると、腕の中の彼は頬を赤らめる。だから、こういうところが可愛いのだ。先ほどまでの彼と同じ人物とは思えない。

「前にさ。みんなで川にキャンプに行っただろう? そのとき、オレが川で滑って転んで溺れかけたじゃん。あんときにさ、オレを真っ先に助けにきてくれたのがお前だった。なんか、かっこいいな、って思った。あれ? かっこいいって言われても、嬉しくないか?」

「あそこは、私が昔から遊んでいた場所ですからね。慣れているんです。それに、あなたから言われる言葉なら、かっこいいでもかわいいでも、ブスでも醜いでも、何でも誉め言葉です」

「バカ」

「それも、誉め言葉としてとらえてもいいですか?」

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