暗い暗い海の底
「好きにしろ」
 この言葉を口にしたときの彼は、ちょっとだけ不機嫌なのだ。
「お前は、いつもそうやって俺をバカにしてる」

「バカにしてまいせんよ。あなたが可愛らしくて、つい」

「可愛いって言うな。オレだって男だ。お前のことくらい、守ってやれる」

 ――守って欲しい。あの男から。
 ――助け出して欲しい。あの男の呪縛から。

 その願いを叶えてくれたのは、目の前の彼。
 そして彼はもう一度、私の胸に顔を埋め、すんと私の匂いを嗅いだ

「どうかしましたか?」

「いや、お前っていつもいい匂いがするな」
 そんなことを言われたのも初めてだ。

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