暗い暗い海の底
「そうですか?」

「そう。いつも美味しそうな匂い」
 言うと、彼はペロリと胸元の先端を舐め上げた。

「んっ……」
 つい、甘い声が漏れてしまう。こうやって彼から攻められたら、余裕のある大人など演じられるわけが無い。

「なあ、もう一回。いいか?」
 こうやって彼から頼まれたら、断れるわけもない。余裕のある大人を演じて、理性を保とうとしていたのに、いつも彼に翻弄されてしまう。

 彼が与えてくれる嬉しい言葉とその快感に身体の全ての感覚を研ぎ澄ます。
 二人で快楽という名の暗い暗い海の底にまで溺れていくしかない。この関係が、今はまだ後ろめたい関係だとしても。
 それでも彼は、私をあそこから救い出してくれた太陽のような存在なのだ。海の底にまで辿り着いた、一筋の光。

 私は人魚姫のような泡にはならない――。

【完】
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