Dear my girl
* * *
一孝がひたすら寝たふりを決めこんでいると、しばらくして、ようやく沙也子から小さな寝息が聞こえてきた。
静かに、深く息を吐き出した。
身体がひどく熱い。
きょとんとして、まじまじとこちらを見つめてきた沙也子の顔が浮かぶ。
今までが今までなので、途中で触れる手を止めたことが不思議だったのかもしれない。
もちろん抱きたいに決まっているし、今だって正直キツいものがある。
必死に耐えている一孝に「眠い?」などとのたまい、人の忍耐を揺るがすようにもぞもぞして、なかなか寝ないときたものだ。
何度(動かないでくれ……)と思ったことか。
最近なんとなく様子がおかしかった。
一孝は、沙也子の額を撫でた。
(熱はねぇな……)
暑い日が続いているので、調子が悪いのかと考えたが、食欲もあったし、どうやら違うらしい。
求めるたびに包み込んでくれる沙也子は、いつだって健気で可愛くて。愛しさが込み上げてつい暴走しがちになってしまうけど、受け入れる方は負担が大きいのだから……こちらが配慮しなければ。
現に途中で止めると、沙也子はホッとしたようだった。
その気になれないときは正直に言ってほしい。
だけどそれは、沙也子の性格を考えれば難しいことは明白だった。以前そのことですれ違いがあったばかりだ。なおさらだと思う。
心も身体も独占したい。
でもそれ以上に、沙也子を大事にしたい。守りたい。
沙也子はすっかり安心しきって眠っている。
一孝は彼女のつむじを見下ろし、そこに唇を落とした。
「ん、すずもとく……」
人肌を求めるように沙也子がすり寄ってくる。
どういうわけか、沙也子は一孝の体温を感じることが好きだ。
沙也子が望むなら、いくらでも抱きしめてやりたかった。
とはいえ、彼女のやわらかさと甘い匂いに、やりきれない衝動がこみ上げる。
(……素数を数えよう)
長い夜になりそうだった。