Dear my girl
16.
(やった……! やった!!)
沙也子はテスト順位が貼りだされた掲示板の前で、ガッツポーズした。
期末テストの結果は25位だった。またしても大快挙だ。順位を上げることができて、心の底からホッとした。
もちろん成績が上がったことも嬉しいけれど、これで一孝に顔向けできるという安堵からくるものだった。
あれからの一孝は、宣言どおり容赦なかった。しかしすべては沙也子のためだと分かっているので、沙也子も必死に期末テストに向けて勉強した。
あまりの徹底指導に、これで成績が上がらなかったらどうしよう、むしろ下がってしまったら……と思うと、胃が痛くなりそうだったが、結果はジャンプして3回転したくなるほどの出来だった。
友人たちの順位も確認すると、1つくらいの前後はあっても前回同様で、涼元一孝は1位である。
見るまでもなさそうだけど、はたして彼は今回も掲示板の確認にきた。生徒の出来をチェックするためだ。
「涼元くん。ほんっとにどうもありがとう。何て言っていいか……。20番台なんて、一生縁がないと思ってた。自分が自分じゃないみたいで怖いよ」
照れ笑いを浮かべる沙也子に対して、今回の一孝は笑みさえ浮かべなかった。褒めてくれるどころか、呆れた態度だ。
「誰が教えてると思ってんだよ。次は10位以内に入ってやるくらい言えよ」
「えー、それ、絶対不可能だから」
調子の良し悪しはあれど、20位くらいまでは固定メンバーだと聞いている。そんな強豪たちの懐に食い込むなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。
おそらく沙也子はこの25位で打ち止めとなり、ここからどう成績をキープするかが肝になると思う。
「最初から諦めてんじゃねーよ」
頭をコツンと小突かれる。
……本気だ。これは冬休みも勉強づけになりそうだった。
ともあれ、期末テストが終われば少し一息つけるのは確かで、沙也子の心はクリスマスへと飛んだ。
「ところで、涼元くん、クリスマスはどうするの?」
まるで虚をつかれたように、一孝は目を見開いた。聞き間違いを疑うみたいに、細かく瞬きをする。
「……どうするって?」
「出かけたり、バイトだったりするのかな」
「……なんで」
「あのね、」
言いかけて、ここが学校の廊下であることに気がついた。つい家にいる感覚で話してしまう。これは悪い癖だった。
周囲をうかがうと、掲示板に群がっている生徒たちは、一様にサッと順位表を見た。一瞬、話を聞かれたかと思ったが、気のせいだったようだ。みんな自分の順位を確認することに夢中だ。
「ま、いいや。あとでね」
「待て、なんだよ」
家で話せばいいことだと思い、沙也子は一孝に手を振って教室に戻った。
涼元一孝の不憫とヘタレ具合が周囲に浸透しつつあるのを、本人たちだけが知らないのだった。