幽霊。〘透明になった日〙
窓際に視線を向けると、彼は相変わらず鉛筆をもって絵を描いている。
きっと私の方なんて一切見ることはない。
けれどそれでも私は自然と彼のことばかり目でおってしまう。

「先輩はいい人だなぁとは思うけれど、好きとかではないかな」

「まあ、両思いじゃないなら仕方ないよね」

「私は付き合ってみて、好きになるっていうのもありだとは思うけどな〜」

「美音はそれでも失敗してるやん!!」

「失敗じゃなくて、単に性格が合わなかっただけです〜だ!」

恋の仕方に決まりなんかなくて、美音のような恋のはじめ方も決してダメではない。
けれど私みたいに1歩すら踏み出せずにいる恋は、いつまでも日陰でひっそりしているだけだ。

近づきたい。話したい。話題を必死に探すけれど、まったく思い浮かばない…

「ちょっと飲み物買ってくるね」

彼が席をたったタイミングで私も廊下に出てみる。
でも声をかけることができないまま、遠くなる背中を見つめるだけだった…
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