春色の恋−カナコ−[完]
あわてて駅へ向って走り出す。

駅まではさほど遠くないはずなのに。

朝と同じ道を通っているのに。

なんだかうまく走れなくて、駅までが遠い。

「カナコちゃん!」

駅の入口で手を振っている河合さんが、笑顔で私の名前を呼んでくれていて。

「コウスケさん」

なんだか嬉しくて、顔が赤くなってしまう。

息を切らして現れた私を見て、笑いながら頭をくしゃくしゃっとなでてくれる河合さん。

「走ってきたの?連絡ないからしごかれているのかと思ったよ」

「ごめんなさい!一日携帯を見ること忘れてました・・・」

あわてて手にしたままだった携帯を河合さんに見せると、ふふっと笑われてしまった。

「お仕事終わるの速かったんですね?」

自然に握られた手は、いつまでたっても慣れなくて。

でも、すごくうれしい。

「ああ、俺ほら、今日から新人ですから」

カナコちゃんと同じだねーなんて笑う河合さん。
< 22 / 241 >

この作品をシェア

pagetop