夫の一番にはなれない


「結婚したって、聞いたよ」

「えっ……どこから?」

「共通の知り合いが教えてくれた。名字が変わったって聞いてさ。最初は信じられなかったけど……よかったよ、幸せそうで」

「……ありがとう」

「正直、奈那子には謝らなきゃってずっと思ってた。あのとき、ちゃんと話すべきだった。あんな形で裏切って、ごめん」


唐突な謝罪に、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


あの頃、望に裏切られた痛みがどれほど深かったか。

でも、時間が経って、來と過ごすうちに、少しずつその傷は薄れていた。


「もう大丈夫。今は……穏やかに暮らしてる」

「そっか。なら、本当に良かった」


彼の視線が、わたしの左手薬指に向けられているのに気づいた。

そこには、來と買ったシンプルな指輪がはまっていた。


わたしたちは、本当の夫婦じゃない。――でも。


わたしは自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。

來との日々は、間違いなく今のわたしを支えている。


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