夫の一番にはなれない
「旦那さん、優しそうだね。奈那子には、きっと似合ってる人なんだろうな」
「……うん。優しいよ。少し不器用だけど、すごくまっすぐな人」
望は何か言いかけて、結局口を閉じた。
そして、小さく頭を下げると、「じゃあ、元気で」とだけ言って、その場を離れていった。
わたしはしばらくその背中を見送ってから、ふと我に返ってマグカップを棚に戻した。
胸がざわついていた。でもそれは、未練なんかじゃない。
むしろ、確信だった。
もう、わたしの心に望の居場所はない。
今、隣にいるべき人は、來しかいない――。
そのやり取りを、少し離れた位置から見つめていた人間がいるとは、わたしは知るよしもなかった。