夫の一番にはなれない
コートを脱ぎ、バッグを置いて、着替えもせずにソファに腰を下ろすと、ふと、あの日の記憶が自然とよみがえってきた。
望と再会した日のこと。
誕生日より少し前の休日、スーパーの近くの道で偶然すれ違って、声をかけられた。
最初は動揺もしたけれど、昔のように気さくな望の口調に、わたしの心も少しだけほぐれていった。
「その指輪、もしかして旦那さんから?」
その一言に、わたしは思わず笑ってしまった。
來が、わたしの誕生日にくれた指輪。
普段アクセサリーをつける習慣のないわたしのために、さりげないデザインのものを選んでくれた。
「……うん。そうなの」
わたしが頷いたとき、きっと自然に笑顔になっていたのだろう。
それは望に向けた笑顔というより、來との日々を思い出して、あたたかくなった心が表情に出てしまっただけだった。
でも―――
來は、その笑顔を見ていた。
わたしが望との再会に、まだ何かしらの感情を持っていると、そう受け取ってしまってもおかしくはなかった。
その後の來の変化を思い返すたび、胸がしめつけられる。
あの笑顔は、來との時間があったからこそ浮かんだものだったのに。
わたしは、ちゃんと伝えられていない。