夫の一番にはなれない
食卓に並べた朝ごはん。
來は「美味しい」と微笑んでくれた。
奈那子も、つられて笑った。
この何気ない笑顔が、昨日よりもずっと自然に交わせていることがうれしかった。
食後、2人は着替えを済ませ、それぞれ出勤の準備を整えた。
玄関の前で、來がネクタイを整える仕草を見せる。
その手元が少しぎこちなくて、奈那子は思わず笑ってしまった。
「……なに笑ってんだよ」
「ごめん。でも、來が不器用なの知ってるから」
そう言いながら、彼の前に立って、ネクタイを結びなおしてあげる。
「これで完璧」
「……ありがとう」
「今日も頑張ってね」
「奈那子も」
靴を履きながら、ふと來が口を開いた。
「……朝、こうして隣で一緒にいられるだけで、なんか救われる」
「……わたしも」
ドアを開けると、外はやわらかな春の風が吹いていた。
桜の花が、まだほんの少しだけ咲き残っている。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
並んで歩く通勤路。
これから先もずっと、こうして一緒に朝を迎えられたら――。
ふと、そんな願いが胸をよぎる。
──まだ“好き”って言えない。
だけど、確かに今の私は、あなたの隣にいたいと思ってる――。