夫の一番にはなれない
第10章 揺れる手のひら
朝、目を覚ましたとき、わたしのすぐ隣に來がいた。
いつものようにソファではなく、ちゃんとベッドで、しかも隣に寝ている。
こんな風に一緒に朝を迎えるのは、1週間前まではほとんどなかった。
來は、まだ眠っているのか、目を閉じたまま静かに呼吸している。
その寝顔に、どこかぎこちなさを覚えたのは、きっとわたし自身がぎこちない気持ちでいっぱいだからだ。
1週間前の夜、わたしたちは初めて本当の夫婦のようになった。
けれど、「好きだ」とも「愛してる」とも言わなかった。
一度も。
氣持ちの温度を確かめ合うことなく、ただ流れるように触れ合って、そのまま眠ってしまった。
來の手のぬくもりはやさしかった。
唇も、肌の温度も、すべてがわたしを包んでくれた。
それでも――
そのやさしさが、本当に「好き」から来ているのかは、まだわからない。
「……おはよう」
ふいに來が目を開き、わたしを見てそう言った。
「おはよう……」
目が合う。
なのに、何を話していいかわからない。
笑うべきなのか、何か言葉を返すべきなのか、何も決められなくて、ただ静かな沈黙が流れていった。