夫の一番にはなれない
酒井さんは、もともと繊細なところがある子だった。
心を閉ざすまで時間がかかったわけではなく、気づいたときにはすでに周囲と距離ができていた。
最初に相談を受けたのは、ほんのささいな頭痛がきっかけだった。
その後、少しずつ保健室に足を運ぶようになり、やがて彼女の姿は教室から消えていった。
「……わたし、あの子に何もしてあげられなかった」
職員室の廊下を歩きながら、気づけばそんな言葉が口をついていた。
來は横に並んでいたが、すぐには返事をしなかった。
その沈黙が、責めていないことを示しているようで、でもどこか優しすぎてつらかった。
「どうして……どうしてもっと早く気づけなかったんだろう」
「奈那子」
名前を呼ばれた瞬間、涙がこみ上げそうになった。
でも、わたしは歩みを止めなかった。
「担任は來なのに……わたしの方が、ずっと近くにいたのに……何も届いてなかったんだね」
自分が教師として、いや人として、どれだけ不甲斐なかったのか。
そう思えば思うほど、心が押し潰されそうになる。
そのときだった。
來が、歩いていたわたしの腕を軽くつかんで立ち止まらせたのだ。