夫の一番にはなれない
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月曜の午後、5限が始まる直前だった。
職員室の電話が鳴り、応対した教頭先生の表情が険しくなったのが遠目にもわかった。
受話器を置くとすぐに、わたしと來の方に目を向けて「ちょっといいか」と手招きしてきた。
「今、酒井さんのお母さんから連絡があってね」
教頭先生の声は、いつになく慎重だった。
「本人が……“退学したい”って言っているそうだ」
その言葉が、鋭く心に突き刺さる。
わたしは思わず息をのんだ。
來の眉間にも、見慣れた皺が刻まれている。
「ただの一時的な気の迷いかもしれないが、保護者としては無視できないと。できれば担任と、保健室の先生にも様子を見に来てもらいたいとのことだった」
來と目が合った。
わたしの方から何か言おうとした瞬間、彼が小さくうなずいた。
「……わかりました」
「俺からも保護者に一報入れて、日程調整します」
教頭にそう返す來の声は落ち着いていたけれど、その瞳は深く揺れていた。