夫の一番にはなれない
「なあ、そろそろ旅行でも行くか」
不意に來がそう言った。
奈那子は紅茶を口に運ぶ手を止め、ちらりと來を見る。
「……旅行?」
「ああ。どこか近場でもいいし。ゆっくりするのも悪くないだろ」
その何気ない提案が、奈那子には小さな奇跡のように感じられた。
心が、じんわりとあたたかくなる。
「うん、いいね。それ、すごく」
奈那子はそう答えて、カップの中の紅茶を見つめながら、ほのかに笑った。
來の横顔は、いつもより少し穏やかで、あたたかくて。
“今、ちゃんと隣にいる”。
それが、何よりの幸福なのだと感じていた。