夫の一番にはなれない
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保健室の午後は、いつも少しだけ穏やかだ。
五時間目が始まってしばらくすると、早苗がいつものようにひょこっと顔を出す。
「こんにちはー。あ、酒井っち、いたいた!」
その声に酒井さんが少し驚いたように目を上げたが、すぐに頬を緩めて軽く会釈をする。
奈那子は、その自然な流れに気づきながら、そっと机の日誌に視線を落とした。
「そのリュック、可愛いね。新しくしたの?」
早苗が席に着くなり、酒井さんの背負っていた淡いブルーのリュックに視線を向けて言った。
「これ……あの、好きなアニメの限定コラボで……。えっと……“エテルナ・ノクターン”って知ってる?」
酒井さんが控えめに口を開いた瞬間、早苗が「え!わたし、それ超好き!」と食いついた。
「今期のオープニング、最高すぎたよね!あと、ラウルが……」
「うん、うん、わかる……あそこ、本当に泣けた……」
興奮気味に話す早苗と、ぽつぽつと言葉を返す酒井さん。
テンポの違う二人の会話が、なぜだかとても心地いい。