身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 大正ロマンの雰囲気を残した落ち着くその店は、以前とあまり変わっておらずタイムスリップしたような気分になった。たくさんの商品が置かれた店内は雑多なように見えて不思議と統一感があり、珍しいそれらは見ていて飽きがこない。

 商品ではないが、インテリアとして飾られたものの中でひとつ、とても懐かしいものを見つけた。

 寄木細工が美しく、高度な技術で作られた伝統工芸品である秘密箱。箱の面をスライドさせて、一定の操作をしないと開けることができないからくり箱の一種だ。

 これはおそらく、父がマスターにあげたものだ。俺も一緒に来た時に渡していたのを覚えている。

 そういえばあの時、この秘密箱を見ながらひとりの女の子と話して……。


「いらっしゃいませ」


 記憶の映像を取り出している最中、奥から出てきたスタッフの女性が挨拶をした。セミロングの髪をひとつにまとめた、透明感のある可愛らしい顔立ちの人だ。

 彼女を見た瞬間、記憶の中の女の子と結びつく感覚を覚える。あの子が大人になったら、きっとこの女性のようになるだろう、と。
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