身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 最近まで久しく利用していなかったカフェの名前を口にすると、ふたりがぴたりと動きを止めた。なぜか驚いたように固まっているので、俺は首をかしげる。


「どうかした?」
「あ、いえ……急に珍しいなと」
「これからまた通おうと思っているよ。探し物があそこにあったから」


 先日、偶然の再会を果たした都さんの姿を脳裏によぎらせて言った。もはやコーヒーは口実になりつつあるな。

 俺が意味深に答えてしまったからか、鈴加さんは表情を強張らせている。朝陽も目を見張っているが、彼は感づいたのかもしれない。探し物の正体に。

 一瞬沈黙が流れた後、朝陽がにこっと笑みを作って口を開く。


「じゃあ鈴加さん、今度俺のコーヒーもお願いしようかな。俺も差し入れ持ってくるから」


 その声にはっとした様子の彼女は、すぐに口角を上げて「承知いたしました」と俺たちに軽く頭を下げた。

 おそらく鈴加さんは席を外した方がいいと察したのだろう。朝陽に向かって「どうぞ、ごゆっくり」と声をかけ、綺麗に一礼して部屋を出ていった。

 ふたりきりの空間に戻った瞬間、朝陽は真面目な顔になって俺を見つめる。
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