身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました
『夕方の海ってオルゴールみたい』
あの日、今と同じように海を眺めながら私が呟くと、手を繋ぐ嘉月さんは不思議そうに振り向いた。
『オルゴール?』
『ほら、音が鳴る時。ドラムが動いて振動弁が次々に弾かれていくの、キラキラして光る波みたいに見えるなと思って』
『ああ……なるほど』
その発想はなかった、と言いたげに目を丸くした彼は、すぐにその目を柔らかく細める。『都のその感性も好きだ』と微笑み、私の額にキスを落とした。
このやり取りを覚えているのは私だけだけど、今新しい思い出を作ることができたんだ。また同じ景色を一緒に見られて本当によかったと思う。
「今日ここに来てよかった。ありがとう、嘉月さ──」
少し離れたところで立ち止まっている彼を振り返り、私は口をつぐんだ。彼が驚きと戸惑いが交ざったような顔で、なぜか呆然としていたから。
「嘉月さん?」
「……ここ、前もふたりで……?」
波の音と共に、ぽつりと呟かれた声が耳に届き、私は目を見開いた。
ゆっくり、一歩一歩こちらに歩み寄る嘉月さんを、信じられない気持ちで見つめる。