秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
「そんな殺し文句をどこで覚えてきた? 悪い子だな、清香は」
 彼の瞳が獰猛な獣のそれに変わる。ふたりの間を流れる空気がより濃密になる。
 熱く、激しく、彼は清香を求めた。

「もっと、もっと乱れて。俺から離れられなくなるくらい、溺れて」
 彼の声は切実だった。ベッドの上の睦言ではない、真剣みを帯びている。
(私も、離れたくない。そんな未来を夢見ていいのだろうか)
 
 決して、許されない背徳の夜にもかかわらず、清香の胸はあふれるほどの幸福で満たされた。優しい声で彼が言う。
「言葉にすべきではないのかもしれない。けど、言わずにはいられない。俺は君を愛している。欲しいのはこの身体だけじゃないんだ。清香の心も欲しい」
 誠実な愛の告白に清香の美しい瞳がぬれる。目尻からひと筋に涙がこぼれた。
「とっくに。ずっと前から、私の心は志弦さんのものです。大好きです。志弦さんは私の初恋で、そして最後の人です」
 彼以外の男性を愛する未来なんて考えられない。そんな未来はいらない。震えるふたつの唇がゆっくりと重なる。
 初めての夜よりずっと深いところで、ふたりはひとつになった。
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