秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 茉莉が相手だから、取り繕う必要なんてない。心のままに打ち明ける。
 昴さんとはきっとうまくいかないから。そうしたら、もしかして……なんて期待がたしかに頭をよぎったことはある。画廊や従業員のことなどちっとも考えていない、自分勝手な妄想だ。そして、その妄想のなかの彼は清香を愛しているのだ。

「ここがね、現実とは一番違うところ」
 清香は肩をすくめて苦笑を漏らす。
 志弦は『一度だけデートをしてほしい』という頼みを聞いてくれただけで、それ以上の関係ではないのだ。恋愛経験に乏しい清香は、抱かれたことで彼の特別になったような気持ちでいたが、彼からすればよくあることなのかもしれないし。
 茉莉はなにも言わない。彼女のほうが男性という生き物を知っている。彼らにとって『一夜かぎりの女』がどういうものか、よくわかっているのだろう。

「それにね、彼は私と昴さんがうまくいくように協力してくれるみたいなの」
 ゆうべの彼の言葉を思い出す。
『昴に連絡を取ってみる』
 おそらく、会いにくるよう弟を説得するという意味なのだろう。大河内家にふさわしいとは思えない自分を、志弦は受け入れようとしてくれているのだ。
 ありがたい、感謝すべきことなのに……この台詞を聞いた清香の胸に広がったものは、絶望だった。
(志弦さんが反対してくれることを心のどこかで望んでた、なんて本当に馬鹿)
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