秘夜に愛を刻んだエリート御曹司はママとベビーを手放さない
 昴に認められるために屋敷に来たのに、行動と感情が矛盾しまくりだ。
「両思いならともかく、そうでないのに……志弦さんを巻きこむようなことは言えないよ。この気持ちはもう葬るって決めたから」
「清香」
 心配そうな茉莉に、にっこりとほほ笑んでみせる。
(期待するほうがどうかしてる。志弦さんは手の届かない憧れの人、一度だけデートできたら諦めるって最初から決めてたじゃない)

「もし昴さんが来てくれたら、努力してみる。……す」
 好きになれるように、好きになってもらえるように。そう言おうとしたのに、どうしても言葉にならなかった。喉の奥がぐっと詰まって、苦しくてたまらない。
 好き、という言葉で思い浮かぶのは志弦だけだ。
 残酷なまでに、その事実を思い知る。
 
 それでも、なんとか前を向こうとあがいた。
 恋愛感情でなくてもいい、昴にとって役立つ女性になれるよう努力しよう。
 そんなふうに考えて、昴を待った。そして、志弦が『昴に連絡をする』と言った日から十日が過ぎた頃、ようやく彼が屋敷に来た。

 金曜日の夜、時刻は夜九時を過ぎていた。駒子に呼ばれ玄関まで出ていくと、昴が靴を脱いで家にあがるところだった。
 どこかで飲んできた帰りなのか、彼の目元は赤く染まっている。
「ふ~ん。あんたが清栄の孫娘か」
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