だめんずばんざい






会話は十分で互いに惹かれたところも伝え合えるが、具体的な会社と仕事はカオルちゃんが俺から離れられなくなってからでないと伝える勇気がなかった。心だけでなく身体もカオルちゃんの魅力に絡め取られた俺の方から離れることは絶対にない。

できる男なら自分に自信を持って‘俺についてこい’と言えるのだろうが、そんな自信は俺にはない。ただ、昼休みを返上して働き彼女と一緒に夕食を食べられる時間に何とか帰り、ゴロゴロしながらたくさん話す。

そして金曜日の夜、どうしても出なければならない会食のためにNinagawa Queen's Hotelの懐石料理店へ行った。こういう店は久しぶりだ。見た目にも美しい料理を目の前にして‘カオルちゃん、懐石料理は好きだろうか?’と考え‘今、彼女は兄弟と何を食べているのだろう’と思った。

先週支払い期限の回収金がまだ支払われていないことで、昼間相手方に何度か連絡を取った結果‘週末にでもいつでも集金に行くから早急に金を準備してくれ’と強く伝えると、土曜日の朝、まだカオルちゃんと寝ている時間に電話があった。隣県地元企業の相手方も今後の受注を考えて必死だ。俺もいつでもと言った手前、痺れをきらせて待っていたとわからせるくらいに早く行きたい。運転手に連絡を入れると今日明日は近くで待機するつもりだったらしく、すぐに宗方も乗った車が来た。

「昨日の向こうの口ぶりで、今日の気がしてたんだ…岳人の着替え、これ」
「ありがと。俺だけでもいいのに」
「こういう相手こそ、徹底した対応でいこう」

こうして隣県まで自ら集金に出向き、カオルちゃんの部屋へ戻ると…彼女が倒れたように寝ていたんだ。

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