恋とも云えない
あの時はどうかしていたんだ。
好きだったのも、あれも、本当は人のものだから、好きになってはいけないから好きになったのかもしれない。

本当の愛とは、何物にも揺らぐことのないものだから。


つまらないことを思い出して、余計に腹が減る。彼のことが好きだったのは事実。でも過去になってしまえば恋心もしぼんでしまう。


それからだ。
恋が怖いのは。

本物の恋とやらが、やけにハードルの高いものになってしまったのは。

信じるということの難しさを、私は未だに引きずっている。


「しのちゃん」

ホテルを出た曲がり角で、後ろから呼び止められる。そんな呼び方で呼んでくるのは一人しかいない。

「今からご一緒しませんか?まあ、一人も二人も同じでしょ、ほらほら」

仕事帰りの日高登場である。
なんなんだ、こいつは暇なのか。そして何度偶然会ったら気が済むんだ。どれだけ都内に人がいると思ってるんだ。

「ストーカーですか?」

「まさか。それを言うならしのちゃんが俺のストーカーなんじゃないの?」

こじらせ女への見事なあしらいかた。重めな私の返しにも飄々としているから楽だ。つんつんしていても、場が凍ることはない。
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