恋なんて、正気の沙汰じゃない!


音が鳴らないように、そっと立ち上がって、ドアの方へ一歩ずつ進む。


鎖が小さく鳴るけど、先生はまだ背中を向けている。


あと少しでドアに手が掛かると思ったら、右足首が引っ張られてしまう。


ベッドから、3メートル弱しか動けないらしい。


ここから逃げ出せない事が分かって、更に恐怖心が膨れ上がる。


なんで……?


ありえない状況すぎて、うまく頭が回らない。


先生の数学のテストが悪いから?


……私より悪い人だっている。


司なんて、毎回追試だし……


他に思い当たる事が見つからない。



「逃げる気?

でも、ここからは出られないよ。」


すぐ後ろから声がして、思わず座り込んでしまった。


腰が抜けたというか、力が抜けたからだ。


そんな私を見て、いつもと同じ顔をして、手を差し伸べてくる先生。


その手を払い退けた。


「ッ……どうして?」


震える手を押さえながら、目の前の男を 精一杯に睨み付ける。


恐怖心が一気に襲ってくる。


泣かない。


泣くもんか。


抵抗するように……


いや、震える身体を誤魔化すように、睨み付けた。

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