ぼくらは薔薇を愛でる
木々を大きく揺らす程の風は、ジョブズの気持ちに呼応しているようだった。エクルの返事を受けたジョブズは、エクルの頬を包んで口づけた。
「んっ……まっ、ジョブ……」
頬を包まれ、背を屈めたジョブズの、深く長い口づけに身体中の力が抜けるかのような感覚を覚え、必死にジョブズの腰の辺りの服を強く握り堪えた。くっついては離れ、また深く絡み合いながら互いに息も絶え絶えになった頃、すぐ後ろの扉が何度か叩かれた。ほぼ同時に父王の声も聞こえてきて、ジョブズは軽く舌打ちをする。
エクルを抱き上げて奥のソファに移動し、座った自身の膝にエクルを乗せ、扉の向こうを無視して口づけを再開させたが、声は変わらず聞こえてきた。
「あー、ジョブズ君、話は終わったよね? エクルさっきの話をしよう! 開けるぞ。あれ……開けてエクル、中に入れて?」
ガチャガチャと扉を揺らしているのは父に違いなく、エクルは気になった。
「ジョブ……父上が、ん……」
扉の方に顔を向けるエクルの頬を掴んで、構わずジョブズはエクルを求め続けた。口内にあるジョブズの厚い舌は熱く、その熱を移すかのようにエクルのそれに絡みついてくる。
そんな熱を知りもしない――予想もしたくない――部屋の外の声の主は騒いでいた。
「王、なりません、恋仲のお二人の邪魔をするなど野暮です」
「何が野暮なものか、大切な話だ! おーいエクル、開けておくれ」
「ほら、いい加減に諦めて! 会議が始まります、参りましょう」
「待て待て、少しだけ! ジョブズ手を出すなよ! いやいいのか? だめだ嫁ぐまでは! 輿入れは十五年後だ! ああああああーーーー会議は中止にしたいよ、エクルー!」
遠ざかる声。従者に引きずられているのだと容易に想像がついた。口づけを止めたふたりは、見つめあって笑いをこぼした。