ぼくらは薔薇を愛でる

「わかったわ、わかった。落ち着いて。では別邸の改築に関してはあなたに一任したほうがいいわね。要望は全て紙に書き出しておいてちょうだい」
 母親は、やや興奮する息子の背中に手を当てながら、静かに話す。

「王女様の事を語る時のあなたの顔を見ていれば、いかにあの方をお慕いしているかがわかるわ……エクル様は良い方のようね。皆で大事にお迎えいたしましょう」
 自分はエクルを愛していても、家族が彼女を受け入れてくれなければ、それはエクルにとって幸せの中の黒い点となってしまう。母親を始め、弟夫妻も降嫁を受け入れてくれている空気感が嬉しく、泣きそうになるところをグッと堪えてジョブズは母親に言った。

「母上……エクル様は本当に高慢なところのない素直なお方です。威張ったりもなさいませんし、使用人達に対しても丁寧に接するお方です。気負わず接して頂けたらと思います。ですがそこは城でお育ちになられた王女様ですから、一般人の常識などには疎いかもしれません、ご指導、よろしくお願いいたします」
「ふふ、きっと大丈夫よ、だってジョブズがエクル様を守るのでしょう。でもそうね、足りないところは私達が補いましょう、安心なさい」

 それからしばらくして城から父親が戻ってきた。ジョブズも乗り気である事を伝えたところ、王も大変にお喜びだったと話す父親も嬉しそうだった。そして明日、ジョブズへ直接話したいと仰せだと聞かされた。

 母親と弟夫妻は、ジョブズの語りを聞く役を父親へバトンタッチして退室し、代わりに父親と、別邸の改築の件について話し合いを始めた。夫妻の寝室から降りられる庭に薔薇の温室を作ること、室内の設えについて。屋敷の改築や護衛の強化についてなど、多岐に渡った。昼を過ぎて夕方近くまで、あれこれと話は続いた。

「では父上、騎士寮へ戻ります。別邸の件、どうぞよろしくお願いいたします。エクル様のご希望がわかり次第、ご連絡いたします」
 侯爵家のシェフが用意しておいてくれた手土産の小箱を手に、ジョブズは寮へ帰った。
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