経理部の女王様が落ちた先には
─────────


─────────────



────────────────


「・・・一生懸命働いて、必ず・・・お返ししますので・・・。」




いつも薫っていた、香水とも違う甘い香り。
その香りに包まれた、この可愛い部屋の中、気が狂いそうになるのをギリギリの理性で保ちながら玄関に向かった時、この子が少し離れた後ろから言った。




お返しなんて、いらない。
あの日、第2営業部の部長としての仕事が始まって数日、俺はとにかく疲れ果てていた。



吐いた溜め息が後ろから吹いた風に乗り、その先を見るとこの子がいた。
真っ赤な強い色をした、薔薇の花。
でも刺がないから、俺はフラッと寄って行ってしまった。



第2営業部の部長になる直前、この子に告げた言葉と同じ言葉を従兄弟様に言われた。
「最高だろ?」と怪しく笑った従兄弟様。
そして、社内や取引先では被っていた仮面を取られ、代わりに眼鏡で本当の俺を飼うよう言われた。
ビジネスマンの象徴であるネクタイを必ず締めることも。



その眼鏡も、ネクタイも、全て、全て取り去り、本当の“俺”で、その子に近付いてしまった。



この、刺のない薔薇のようなこの子の隣にいるのは、とても癒される時間だった。
どんなに疲れていても、この子の隣にいるだけで疲れがパッと散っていった。



この3年間、この子が隣にいてくれたから、俺は第2営業部の部長としてやってこられたんだ。



だから、お返しなんて、いらない。
< 122 / 213 >

この作品をシェア

pagetop