【完】ハッピーエンドに花束を
「・・・いただきます」
これは紛れもなく間接キスである。
でも初心(うぶ)だと思われたくなくて、悟られないように飄々とした顔でペットボトルに口を付けた。
暁人はこんな些細な事を気にしないのかもしれないが、私の心臓はもうバクバクである。
飲んでいる間は唇が震えて、あろうことか口の端から溢れるかと思った。
「ありがとう」
キャップを閉めて、彼に渡す。
「どういたしまして」
そして女の子はあまり身体冷やさない方がいいよ、と立ち上がった暁人。少し前から思ってはいたがこの男、やけに女性慣れしている気がする。女の子に対する態度とか気遣いとか、完璧なのだ。
すると気になるのは暁人の元カノの存在。好きだと気付いて目で追いかけてきた期間は、彼が女子と2人でいる所をあまり見たことがなかったから考えもしなかった。
でも本当は、もしかしたら他校に彼女がいたりしたのかもしれない。
「ショッピングモールの中にあるカフェでもいいかな」
「うん、いいよ」
そう思うと、存在の有無も分からない元カノの存在が気になってしょうがなかった。姿も形も知らない相手に嫉妬したのだ。
悶々として動かなかった私を覗き込むように暁人の顔が近付いてくる。
「芽依?」
「手、繋ぎたい」
でも、例え期間限定の恋愛だとしても、今の暁人の彼女は私だ。
「もちろん」
彼に向かって手を伸ばすと、しっかり包み込んでくれた。それだけで心にかかったもやが晴れてしまう。自分が思う以上に、私は単純な女だった。