私の嘘と彼女の真実
話がまた元に戻ってくる。
しかし、いくら頼まれたところで季実枝に応じる気はない。

「私、親友を裏切る気はないし」

元セフレと十年来の親友。
どちらを取るかなんて聞く前から決まっている。

「絶対、友子にバレないようにする。
それにもう、季実枝だけが最後の頼みなんだ」

季実枝の手を取り、和史が眼鏡の奥からじっと彼女を見つめる。
柄にもなく真剣なその瞳に、たじろいだ。
ここまで頼られると無下に断るのは悪い気がしてくる。
それにセフレ時代、それなりに和史には助けられてきた。

「……一回だけ、だから」

黙っていればきっと、ゆるふわな友子は気づかない。
それにそこに恋愛感情がなければ浮気にはならないはずだと、季実枝は自分に言い聞かせた。

「サンキュ、助かる」

あれほど深刻そうだったのに和史の声は軽い。
早まった気がしたが、いまさら季実枝は前言撤回できなかった。

近くのホテルにふたりで入る。

「……季実枝」

眼鏡の向こうで目尻を下げ、甘い声で和史が季実枝の名を呼ぶ。
ひさしぶりにこんなふうに呼ばれて身体があの頃を思い出し、じんと奥が熱くなった。
唇が重なり、彼が入ってくる。
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