近くて遠い幼なじみの恋
「純愛こそ正義!お前らには分からんのか?」

ダンディな顔で真剣に言われて女将さんと私、周りで見てた調理場の人達も大笑い。
納得してないのは旦那さんだけで不満そう。

「じゃあ純愛は大事にお預かりして行きます」

大量のお菓子とDVDを持ち、笑いを噛み殺して厨房を後にする

「さて帰りますか」

ルームミラーでいつもの癖の響旅館を見てアクセルを踏み坂道を下りて行く

おじさんもおばさんも本当によくしてくれる。

柊じいちゃんと話した内容が頭を過ぎる

私の一方的な自分の気持ちのせいで【政略結婚】が変な感じになってしまったら?
私とあーちゃんだけの問題じゃなくて響旅館全体とうちの問題にもなりうる

「やっぱり無理なのかな…」

坂道を下りた信号が青に変わり交差点を入った瞬間

キィーーーーーーー!!!!

つんざく様なブレーキ音に横を見ると大型トラックが間近に来ていた




ああ、チョコレートぐちゃぐちゃかな。
そう言えばDVDも…お父さん続き見れないからショックかな

衝撃直後は覚えていない。
痛いとかの感覚は感じずただ頭の中はぼーっとしながらも救急車の音なのかパトカーの音なのか聞こえてくる

つーっとした感覚に辛うじて動いた左手で顔を触ると指にべっとりとした血が。

あちゃ…死ぬのかな
今までの事が走馬灯のように蘇り痛くもないのに涙が溢れる

「さっちゃん!!」

あ、おじさんとおばさんの声と調理場の人達の声がかすかに遠くに聞こえる。

皆んな旅館の準備があるのに…ごめんなさい

萎んだエアバッグとハンドルで息が苦しくなって意識がどんどん遠のいていく


ガンガン


「さち!!ちょっと退いて下さい!!しっかりしろ」

あーちゃんの声?

状況は分からないけど窓ガラスを叩く音が聞こえてその後も何か聞こえるけど私の意識は全部を遮断してしまった
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