近くて遠い幼なじみの恋
6匹目、水魚の交わり
「あーちゃん…」

何万回、何億回言ったって飽きる事がない言葉

「分かったから!後で何度でも聞いてやるから!頑張れ」

軽く開いた目に飛び込んで来たあーちゃんの顔。

珍しいな…
朝起きた時とは全く違う、焦った顔なのか泣きそうなのか分からない顔

“大丈夫だよ”と言って上げたいけど声が出ない。

心配かけてごめんね、あーちゃん。




25年も近くに居てなんで“好き”と一言伝え無かったんだろう。

でも、あんな心配そうな顔見れただけで、

「死んでも…後悔しない」

「バカ言うな」

その言葉とは裏腹な声にゆっくりと目を開けると真っ白な天井を背景にしたあーちゃんの顔。

口元に付けられた酸素マスクを取ろうと右手を出すとギブス。左手には点滴。

「ちょっと待て、看護師さん呼ぶから」

あーちゃんに言われて返事の代わりに目をパチパチさせた。



「血圧も心臓も脳波も落ち着いてるからもう大丈夫ですよ」

そう言う先生に母とあーちゃんは笑顔を見せる

「幸、良かったわね。本当一時はどうなるかと」

話に聞いた限り事故の衝撃で割れたガラスが身体中を傷つけて大量の出血と頭を強く打った事で意識が戻らず1週間寝てたらしい。

「おじいちゃんとお父さんに連絡してくるね」

母はグスッと鼻を鳴らし花の入った花瓶を持ち病室を出て行った。

「おばさん凄く心配してたんだぞ。傷深く無くて良かったな」

静かに閉まる病室の扉を見ながらあーちゃんは泣きそうな顔で私の頭を撫でる

「あーちゃん」

「何?」

「あーちゃん、」

「何だよ。ふっ」

何度も呼ぶ私を笑うあーちゃんはパイプ椅子に座り私の顔を覗き込んだ。

きっと今言わないと絶対後悔する

「あーちゃん…好き」

小さく口から出た言葉にあーちゃんの目は一瞬大きく見開いた
< 21 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop