近くて遠い幼なじみの恋
この襖を開ければ待ち受けている2人の祖父。

「さっちゃん、深呼吸ね」

女将さんが私の右手を擦りながら緊張した面持ちを隠し微笑む
右手のギブスには友人達の応援の言葉の数々と左手には真新しい指輪とあーちゃんの暖かい手の温もり。

「絢くん、頑張って」

うちの母もギュッと拳を握りしめてあーちゃんを応援する

両家の母は顔を見合わせて「全く、男親は…」と呟いて別館の方に溜息を吐いた

両家の父は見るに耐えかねて別室で酒を酌み交わし今頃ドラマの話に花を咲かせてるだろう。

「絢、きちんと策は練って来たんでしょ?」

女将さんの言葉に「当たり前」とだけ言って口を結んだ

とにかく両家の結婚の未来はこの祖父達をねじ伏せ無くては先に進まない
実の親達ですら口が出せないんだから今日が最大の山場

「さち、行くぞ」

握られた左手に力が込められて母達によって椿の間の襖は開かれた



30畳はある広い和室の上座に2人の姿を見つけて私達は手を繋ぎゆっくりと前に進む

「絢くん、幸も座りなさい」

うちの祖父の言葉に目の前に置かれた座布団を避けて私を支えながら座らせて私の隣にあーちゃんは腰をおろし頭を下げた

「幸、美津さんの着物、よく似合ってる」

顔を上げると目を細めて私に柊じいちゃんは軽く微笑んだ。

「婆さんには負けるがな」

じいちゃんの言葉に軽く睨んで柊じいちゃんに「ありがとうございます」とお礼を言う

「絢、今日の席についての理由を話して貰おうか」

理由と言う名の今後の説明をしろと言う意味の厳しい声が飛びその場を張り詰めた空気が漂う

「日向幸さんと結婚致したくお願いに参りました。まずはその箱を開けて中の物をご覧下さい」
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