近くて遠い幼なじみの恋
「婚約につきましてはお断りを先方に伝え破談にさせて頂きました。これについては、お2人が1番よく分かってらっしゃるのでは?」

2人って事はうちの祖父もあーちゃんの婚約に一役買ったと言う事になる

「先方の銀行頭取である神取(かんどり)家の先代とはお2人共、旧知の中とお聞きしました。
融資と引き換えの見合いも嘘だったと。
それに遥菜(はるな)さんにも思いを寄せた方がいるのもご存知だったんですよね?」

「うむ」と言って祖父達は苦笑いする

「ただ今後のホテル建設に関する融資等は1度見直しまして神取家とは別に5社ほどお話が来てますので大旦那にも目を通して頂きたく思います」

「ほう。よくここまで短期間で見直せたな」

柊じいちゃんは老眼鏡を付けじっくりと書類に目を通した

「幸はどうするつもりだ?」

祖父の問いかけに今度は私が答える番

「私も絢さんと結婚したいです。
イギリスにも付いていくつもり。魚屋はじいちゃんと父さんに3年はお願いしたい…です。それまでに経営も勉強するし早起きも頑張る…つもり…」

早起きを自分で口にして“しまった”とは思ったけど出た言葉は消し去る事は出来ない

2人の祖父は顔を見合わせて頷き、柊じいちゃんは口を開いた。

「鰯よ、ワシらの負けかな」

「嘘の結納とかお金のかかる大掛かりな嘘付きましたしね。皆んな巻き込んで何をやってるんですか」

あーちゃんの言葉に2人の御老人は首を竦めた

「だいたいお前達がさっさとくっつけば…ん?これは」

黒塗りの漆の箱にまだ何か見つけたらしく古い紙切れを出して今日何度目かの目を見開いた

「最初から負けじゃないか」

「婆さんは先をよんでたようじゃな」

「あーちゃん、何て書いてあるの?」

皆んなの反応が凄く気になって耳打ちする

「10年前、美津ばあちゃんに幸を貰う約束した契約書。まあじいちゃん達が何かするかもって見越してばあちゃんに作らされた」

そう考えると私が色々慌てた事は何だったんだろ

「あーちゃん、結納とか嘘って分かってたわけよね?」

「さちの反応見るのが楽しくて意地悪した」

イラッとはするけどあーちゃんを怒れるわけない
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