消えた未来の片隅で
「早く寝ろよ」
踵を返した先生は軽く私に手を振って出口に向かって行く。

沈殿した気持ちがザワザワと音立てて登ってくる。
ダメだと分かっているのに。

このままもう帰って来ないようなそんな気がして、恐怖と寂しさ、愛しさが香った。

気づけば私は点滴を振り払って先生の背中に飛び込んでしまった。

「俺は居なくなったりしない」

怖い。
また人を傷つけてしまうかもしれない。
もう二度と会えなくなるかもしれない。
大きく育った不安の影が私を襲う。

苦しい。
呼吸が荒くなっていく。
目の前が真っ暗になっていく。
白衣の甘い匂いに包まれて足の力がスっと抜けた。

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