消えた未来の片隅で
1.小さな卒業式
<曇った感情>

「せめて成人式は行きたかったなぁー」

そんなことをつぶやくと、低くて心地のいい声が「行けばいいじゃないか」と言った。

あと二年後。

その二年後がさも約束されているかのように彼は言った。

疑いも迷いも一切感じない。

「そっか。そうだよね…」

いつもこうだ。
私が勝手に諦めてそれを先生が引き揚げる。

クールでかっこよくて何より優しい人。

いつからか先生の存在と私の存在は等しくなっていた。
私の存在が先生の存在と等しいかは分からないけれど。

いつだって先生は私の未来を信じてくれた。

明日が来ること、来週が来ること、来月が来ること、来年が来ること。
いつも当たり前のように口にしてくれた。

友達が急用でお見舞いに来れなくなった日も
「また今週末にでも来てもらえばいい」 。

病院の購買で大人気のクリームパンが売り切れてしまった日も
「明日俺が買ってきてやるから」。

楽しみにしていた花火大会が雨で中止になった日も
「また来年だな」。

その言葉にいつも救われていた。
私も未来を考えていいんだと思えた。

月明かりに照らされて輝く先生の横顔。
美しくて切ない。

先生を見ていると涙とともに溢れ出しそうになる感情。

溢れ出してしまわぬように必死に抑える。

無理やり押さえ込んだ反動で心臓がドクンと大きな音を立てて鳴った。

そして、重くどんよりとした気持ちだけが残る。

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