憎んでも恋しくて……あなたと二度目の恋に落ちました


「君がサンフランシスコから帰国すると聞いて、さっそく声をかけさせてもらったんだ」
「ありがとうございます」

直哉は、軽く頭を下げた。
彼は克実より少し背が高いが、薄いシャツの上からでも筋肉質なのは察せられた。長時間の手術を乗り切る体力の持ち主だと、ひと目でわかる。
きりりとした眉からは意志の強さを感じるが、面立ちは優し気だ。
克実に促され、直哉は彼と向き合うようにソファーに座った。

「スタンフォードの病院に何年いたんだ?」
「五年くらいですね。もう少し早く帰国するつもりだったのですが……」

直哉は笑って言葉を濁したが、最先端の心臓手術を学んできたのだ。
色々と苦労もあったことだろう。
克実は後輩を思いやったのか、鷹揚にうなずきながら契約の話に切りかえた。


「うちの病院とは七月一日からの契約にさせてもらったよ。問題はない?」
「はい。今日まで猶予をいただけたので助かりました。静岡の実家に立ち寄ることもできました」

帰国してすぐに仕事では故郷の親の顔も見に行けない。
克実が気遣って、勤務に入るまでに少し時間をとっていたのだ。

「君に用意したマンションはどうかな?」
「広いですし、大学病院にも近いですね。助かります」

克実は直哉の返事に満足そうだ。実のところ社宅扱いにしては豪華なマンションだった。


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